海外移住について

ある程度自由人としての生活が軌道に乗ってくると、海外移住や外こもり等を考えるようになる人が多い。

つまり、海外で生活しながら日本円を稼ぎ現地で外貨に換える。もしくは、現地で外貨を稼いで生活するというスタイルだ。

自由業で、ネットさえつながっていれば場所を選ばない「ノマド」で働く人も増えてきた。住む国すら縛られないですむのだから、非常に喜ばしいことといえる。

しかし、物価の安い国は治安が悪かったり、物価の高い国は生活費が高かったりと、その選択は難しい。

現地の人間との相性もある。英語すら通じない国もある。これは、旅行などで訪れたり、または短期間暮らしてみたりしながら見極めるしかない。

どんな国であっても、住むとなれば楽しいことばかりではないからだ。

海外移住を考えたときにやっかいなのがビザや永住権の問題だ。

フィリピンやマレーシアのように現地の銀行にある程度の預金をすればいい国もあるし、オーストラリアのように特別な技術や学歴や語学力が必要な国もある。

ビザなしで、数か月ごとに入出国を繰り返したり帰国したりする方法もあるが、そうなると旅費と交通費がかさんでくる。

また、国情はいつどのように変わるかわからない。

治安の悪化、戦争、紛争など、海外で生活できなくなった場合(日本に帰らなければならない場合)のことを考える必要がある。

へたをすると年を取って日本に戻る羽目になったあげく、身内や知り合いとは縁が切れていて賃貸契約等も結べず、ホームレスに……などということになったら目も当てられない。

そのため、少なくとも現地の永住権が取得できるまでの間は、「保険」として日本にある不動産(住所)を維持しておくことだけはすすめておきたい。(実家などの住所が使える人を除く)。

もちろん、郊外の安い土地で構わない(正直、日本国の土地ならどこでもいい)。僻地にポストだけおいておくという形ですら構わないと思う。

年金、生活保護、保険、銀行証券口座、とにかくこの国は、あらゆる社会保障を受けるためにも、あらゆる契約を結ぶためにも、「住所」が必要なのだ。

近頃、ろくな収入貯蓄がないにもかかわらず、「海外で働かずに暮らしたい」という声が多く、驚いている。

資産や年金を利用したり、生活費をバイトやネット収入で稼いだりしながら、物価の安い国で暮らす。もちろん、そうした生活スタイルは昔からあった。

ひと昔前まではなら「沈没」、現在だと「外こもり」だろうか。

これらは、資産家や年金リタイア組のリッチな海外移住とは一線を画す。しかし、途上国での生活は、本当に「安い」のだろうか。よく考えてみてほしい。

物価の価格差を利用して移住する場合、タイ、マレーシア、ベトナム、インド、フィリピン、カンボジア、台湾あたりが有名所だろう。

現実には、シンガポールを台頭としてマレーシアなどのアジア圏は近年非常に発展してきており、昔と比べて物価が高くなっている。

安宿自体も減っているし、安宿の価格も数倍になっている。

たとえばだが、タイで1日200~500バーツ程度の安宿(ドミトリー)を利用しても月2万~4.5万近くかかる。

食事は屋台を利用したとしても1食50~100バーツ月1.4~3万。ビザ代(トリプル)60日×3回で9,000円。その他、交通費、雑費、なども見積もらなければならない。正直、頑張っても月7~10万はかかる、というのが実感だ。

また、外国を放浪していても国籍が日本にあるのなら、年金(収入によっては免除)、健康保険(収入によっては7割減免)は支払わなければならないし、日本の住居拠点(実家等を頼れる場合を除いて)を維持したままなら、賃貸料または固定資産税等は発生する。

加えて、途上国は、暴動、戦争、デモ、円安、様々なリスクがある。日本人は犯罪に合うリスクも高い。ならば、途上国でも治安の良い地域へ、となると、今度はお金がかかる。

治安の良い、お金のある人間の集まる地域やマンションとなると、途上国であっても生活費が月数十万~数百万というケースがめずらしくない。

最低クラスの生活費を考えても、日本で最低限の暮らしをするよりずっと高くつく。

なんせ、たとえ日本で普通に賃貸生活をしたとしても5万円あれば暮らせるのだから。

漠然と、「物価の安い海外でなら安く良い生活ができるだろう」などという軽い考えで飛び立つことのないようにしたい。

もちろん、海外の自由な風に吹かれる解放感はプライスレスだ。

しかし、海外で働かずに暮らせるのであれば、まず日本で働かずに暮らせる。

そして、いまや途上国に対してですら、昔ほど円は強くないということは、理解しておかなければならないだろう。